進路指導10年の軌跡 (3)

平成22年度入試 ~ 平成24年度入試

2014年09月01日更新

七 平成22年度入試

・センター試験難化

 大学志願率の高まりが続いていることに加え、新規高校卒業者数が9年ぶりに増えたことで、センター試験志願者は前年から約9千人増加した。しかし、センター試験の7科目総合の平均点は文系で前年比マイナス4点、理系はマイナス29点と大幅にダウンする厳しい結果となった。

・国公立大人気

 センター試験が難化すると国公立大学の志願者数は減少することが多いが、この年度はセンター試験の難化にも関わらず、国公立大学の志願者数は前年よりも増えた。背景には、不況による全国的な国公立大学人気の高まりがある。特に志願者の増加が目立つのは、少数科目で受験できる公立大学である。

 一方で、東大は2年連続で志願者数を減らした。センター試験難化の影響もあり、数年来の東大人気が落ち着いてきたようだ。ただし、旧帝大を中心とする難関大や医学科の総志願者数は前年並みであり、受験生の難関大志向そのものに変化はない。

・私大の概況

 国公立大学の人気が高まったが、私立大学の志願者数も増えており、私大全体では前年比103・6%であった。ただし、増えているのは大都市圈であり、地方の私大では志願者の減少が顕著である。方式別では、特にセンター試験方式の伸びが著しい(前年比107・8%)。不況下で受験の際の交通費や宿泊費を抑えたいという受験生と保護者の心理が垣間見える。

 早慶などの難関私大では前年に引き続き志願者が減っている。特に関東以外の地区からの志願者の減少が目立つ。もっとも、入試難度は易化しておらず、少数激戦になったといえる。

 本校では、早稲田大41(-27)、明治大53(-25)、慶應義塾大16(-17)などで出願者の減少幅が大きい。一方で、中央大63(+23)、東京理科大29(+17)、法政大38(+11)などで出願者が増えている。合格者の増加が目立つのは、中央大21(+15)、東京理科大11(+6)、日本大8(+7)、日本女子大6(+5)などである。


平成23年2月22日付 秋田魁新報

・「眠れる獅子」の目覚め

 この年度は東大に10人(過卒と合わせて16人)、東北大に50人(過卒と合わせて59人)が合格した。いずれも本校の最多記録(平成25年4月現在)である。東大合格者数は北海道・東北地区最多で、東北大合格者数は全国2位であった。東北大は前年以上にAO入試に挑戦する生徒が多く、Ⅱ期で13人が受験して6人、Ⅲ期で32人が受験して13人が合格している。

 この年度の本校の成果に対して、東北地区某高校の進路指導担当者が「眠れる獅子が目覚めてしまった」「もっと寝ていてくれれば良かったのに…」と語ったという話がある。

・大学入試分析会

 この年度の受験生が3年生になったばかりの平成21年4月、「大学入試分析会」が開催された。これは、前年まで「拡大進路部会」として開催されていた会議を改めたものである。従来は新旧3年部以外の職員の参加は任意であり、事実上新旧3年部の情報交換会で終わっていた会を、全職員が参加する職員会議の形式にしたのである。これによって、多くの職員が情報を共有し、進路指導について考える機会を得た。

・模試の解説講座

 この年度の新たな取り組みの一つに冠模試(大学別模試)の解説講座がある。特に受験者が多い東北大・東大について、本校職員が問題の分析と解説を行った。速やかな弱点補強を狙いとし、模試結果が届いてからではなく受験直後に実施したのである。担当する職員には、各大学の出題傾向をふまえながら解説することが求められたため、講座担当者にとっても良い勉強の機会となった。このほか、回数はあまり多くはなかったが、1回20~30分程度の「昼休み講座」も実施された。3月には国公立大学の後期日程対策として「弥生講座」も始められた。

・基本的生活習慣の確立

 本校の進路実績が躍進したのは、前年度から始まった新しい取り組みによるところが大きいのは疑いようのない事実である。しかし、それ以前にも、躍進の種はまかれていた。

 この学年は「基本的生活習慣が確立すれば進路実績は必ず向上する」という信念のもと、入学以来、学年一丸となって生活指導の徹底を図った。遅刻や整容のほか、携帯電話やインターネット利用に対する指導を行ったこともある。生活指導は生徒の自主性を重んじる本校では重視されてこなかったが、こうした指導により、遅刻者や休み時間に携帯電話で遊ぶ生徒はほとんど見られなくなり、落ち着いて学習する環境が整った。

・諦めさせない声かけ

 この学年ではこまめに生徒との面談が行われた。学級担任による面談のほか、教科担任による面談、さらには学年主任による学年全員との面談も行われた。面談では目標を高く持つことの大切さが語られ、「東大だって届く」「東北大は行ける」など、生徒の可能性を信じ、背中を押すような声かけが行われた。こうした励ましに「勇気づけられた」と話す生徒は少なくない。

八 平成23年度入試

・国公立大人気の継続

 新規高校卒業者数は減少しているが、センター試験志願者は前年より約5600人増えた。不況を背景にした国公立大学人気は相変わらずで、就職難を受けて特に教員養成系・医療系など資格取得が可能な学部・学科に人気が集まった。全体として理系人気の一方、文系は不人気で「文低理高」といわれた。

・センター試験易化で強気の出願

 センター試験の平均点は多くの科目で前年を上回った。上昇幅が大きいのは数学IA(+16・99点)、物理I(+10・07点)であり、前年ダウンした7科目総合の平均点は文系でプラス17点、理系でプラス26点といずれも上昇に転じた。

 センター試験の平均点上昇によって、旧帝大を中心とした難関大や医学部医学科の志願者が増えた。特に理系人気の影響を受けた東工大、総合入試導入初年度の北大の志願者増加が目立つ。2年連続で志願者が減っていた東大も前年比104%となった。

・国公立医学科22人

 強気の出願は本校でも見られた。特に医学部医学科への積極的な挑戦が目立った。例年、医学科を志望しながら途中で志望変更する生徒も少なくないが、医学科志望者の多くが志望どおりの受験をした。「医学科を単なる憧れに終わらせない」という方針のもと、早期に志望理由書を書かせたことなどが、生徒の初志貫徹の姿勢を生み出したといえるだろう。

 受験の結果も良好で、結果的に国公立大学の医学科に22人が合格を果たした。このうち4人は「東大に匹敵する」とも言われる旧帝大(東北大2、北大1、阪大1)に合格している。この年3月に発売された週刊誌では、本校の国公立大学医学科の現役合格者数は全国の公立高校で最多であったと報道された。

・医学科以外の状況

 医学科の合格者が増えた影響もあって、前年に最多記録を更新した東大は5人にとどまったが、このうち1人は現行方式で本校初となる後期の合格者であった。東北大には前年とほぼ同数の48人が合格した。理系の合格者が前年30人から23人に減った一方、文系は20人から25人に増えた。AO入試ではⅡ期で12人が受験して6人、Ⅲ期で22人が受験して7人が合格している。

 私立大学は、のべ合格者数は微減(177→170)ながら進学者が大幅に減った(58→42)ことが特徴で、長引く不況の影響がうかがえる。ただし、全国的に私大受験者が減るなか、本校では早慶の受験者が増えた。早稲田大は49人(+7)、慶應義塾大は25人(+9)が受験している。しかし、合格者はいずれも減少した(早稲田16→7、慶應6→3)。受験者が減っても、難関私大に易化傾向は見られない。

・東日本大震災

 平成23年3月11日に発生した大地震の影響により、国公立大学では後期の個別試験を取り止めた大学が25、延期した大学が4、追試験を実施した大学が35あった。東北大は後期を取り止め、センター試験のみで合否を判定した。後期が実施された大学を受験した生徒のなかには、地震による交通機関の麻痺で帰宅が困難となった者もいた。また、東日本大震災は宮城県に多大な被害を与えたため、仙台市内の予備校で再受験を目指す卒業生は例年よりも少なめになった。

九 平成24年度入試

・センター試験の制度変更

 センター試験の制度が変わった。地歴・公民と理科の実施方法が変更されたのである。科目選択の制約がなくなり、世界史Bと日本史B、物理Ⅰと地学Iといった従来はできなかった選択も可能になった。また、文系では旧帝大などで地歴・公民の4単位科目を2つ受験することが必須とされ、理系においても旧帝大や医学部医学科では、地歴・公民は4単位科目から1つが必須となった。この動きにともなって「倫理、政治・経済」という科目が公民の4単位科目として新設されたが、旧帝大や医学科を目指す受験生にとっては、負担が増えた形となった。

・センター試験の混乱

 センター試験の制度変更は、実施段階で過去に例を見ない混乱を招いた。問題冊子の配付ミスや、答案回収時間帯のトイレ希望者の退出等の事件が、試験監督者の理解不足によって全国各地で発生した。このほかにも、問題訂正内容の告知漏れ、リスニング機材の未着などがおこり、再試験対象者は過去最多の3836人となった。

・「倫理、政治・経済」の誘惑

 センター試験の平均点はほとんどの科目で前年を上回った。
下がったのは数学ⅡB・世界史B・地理Bの3科目だけで、最も下がった地理Bもマイナス4・24点であった。新設科目の「倫理、政治・経済」の平均点は67・14点て、地歴・公民の4単位科目のなかでは日本史Bの67・92点に次ぐ高さだった。この平均点は、この科目が次年度以降も簡単であり続けることを保証するものではなかったが、地歴B科目を負担に感じる受験生を惹きつけることになった。

・国公立大志願者の減少

 2年連続で増加していた国公立大学の志願者が前年比98・1%と減少した。これは、難関国立大を中心に後期日程が廃止されたことや、志願者増加が著しかった公立大でその反動がみられたことによる。日本の不況の出口はいまだ見えず、不況を背景とする国公立大人気が衰えたわけではない。ただし、前年におきた東日本大震災とそれにともなう原発事故の影響によって、東北地区・関東地区の大学は志願者を減らしている。

・文低理高・資格志向

 学部系統別の志願状況をみると、全体的には「文低理高」の傾向と資格志向が続いている。理系は難関大・地方大を問わず志願者の増加が目立つ。文系では法・政治、経済・経営・商系統の不人気が顕著で、難関大でも志願者が大幅に減っている。一方、就職難を背景に教員養成系の人気が高まっている。

・東大に現役8人

 理系人気の高まりのなか、東大の志願者は理科一類が前年比107%、理科二類が110%と大幅に増えた。理科一類にはセンター試験の高得点者が例年以上に集まり、第一段階選抜ラインは過去最高の770点となった。激戦となった理科一類に本校から現役で5人が合格したのは大健闘といえる。最終的に本校の東大合格者は現役8人、過卒6人の計14人となり、2年前の最多記録の更新こそならなかったが、北海道・東北地区の公立高校では最多となった。


平成24年4月21日付 秋田魁新報


自主的な学習の場として活用される学校図書館

・東北大AOで20人

 東北大の合格者は43人(-5)であったが、特筆すべきはAO入試への挑戦者と合格者の多さである。Ⅱ期で18人が受験して10人、Ⅲ期で33人が受験して10人が合格した。このほか、農学部の推薦に1人が合格しており、合格者全体のほぼ半数の21人がAO・推薦での合格者であった。生徒の積極的な挑戦と指導体制の確立がこの結果につながったといえる。

・秋大医学科受験者の激増

 この年度の特徴として、秋田大学医学部医学科志望が多かったことがあげられる。推薦・前期・後期を合わせての総出願者は前年の36人から79人に激増した。しかし、合格者は前年の17人から10人に減少した。残念なことに、第一段階選抜で不合格になった生徒が多かった。これは、センター試験の配点を変更した秋田大に、首都圏をはじめとした県外の受験生が押し寄せたことで倍率が高まったことによる。一定レベルの実力を持ちながら、2次試験を受験できずに悔しい思いをした本校生徒の多くは、次年度にリベンジを果たすことになる。

・私大受験者の激減

 全国の私立大学全体の志願者数は前年並みであったが、本校の総出願者数は前年の481人から361人に激減した。これにともなって延べ合格者数も減少(170→113)したが、進学者数は増加(42→52)した。進学先としては早稲田大6、慶應義塾大6、中央大5、明治大4、青山学院大4など、難関私大およびそれに続く難度の大学が多かった。

・北雄合宿


北雄合宿

 24年度入試を受験したこの学年の取り組みとして、「北雄合宿」を忘れることはできない。記念すべき第1回は、入学式直後の21年4月9日から1泊2日の日程で、プラザホテル山麓荘(仙北市田沢湖町)を会場に実施された。生徒向けの「合宿のしおり」には、合宿の目的として次の3点が記されていた。

  • 各界で活躍している卒業生等の講演を通して、より広い職業観を形成し、秋高生としての高校3年間の指針を得る
  • 国語・数学・英語の学習の進め方を体得する
  • クラス集団・学年集団という意識を形成する

 さらに現在は、校歌・校友会歌を習得することも大きな柱にしている。

 この合宿で最も重視されたのは、進路意識の高揚・職業観の形成であった。単なる学習合宿という位置づけではなかったのである。本校の卒業生および卒業生の保護者計6人を講師に迎えての講演は、生徒はもちろん引率した職員にも好評で、合宿終了時のアンケートでは90%の生徒が「良かった」と評価した。学年主任はのちにこの合宿を振り返って、「生徒ガイダンスとして効果的であったばかりでなく、職員にとっても生徒理解や集団意識形成の点で有意義だった」と述べている。