新たなる伝統への流れ (5)

教育相談 ―ピア・サポートプログラムを導入して―

2014年09月01日更新

一 はじめに

 平成18年度、多くの生徒が心身の不調やけがの処置のため保健室で処置を受けた。在籍957人に対し、1年間に手当をした人数および件数は、実人数563人、1964件に及んだ。来室の主な理由は風邪・腹痛・頭痛・気分不良であるが、個々に原因を分析してみると、背景に心因性の不調が隠れているケースもあり、とりわけ友人同士の交流の希薄さやコミュニケーション不足が、学習活動へも大いに影響を及ぼしていることが推察された。そこで保健教育相談部では不調者を減らし学習に集中できる精神力強化をねらい、平成11年度より本校のスクールカウンセラーとして委嘱している日本赤十字秋田看護大学斎藤和樹准教授のアドバイスを受けて、「ピア・サポートプログラム」を企画・実践することにした。

ニ ピア・サポートプログラムとは

 ピア・サポートプログラムの歴史は長く、イギリスやアメリカで、先輩が後輩の生活の世話をしたり、学校の中で仲間同士の影響力を活用しようという試みから始まったと言われている。その後学校教育の中で組織的に研修を実施し、現在のようなピア・サポートプログラムの形にしたのはカナダである。日本に入ってきたのは1990年代と比較的近年になってからで、2000年代に入って、文部科学省が活動推進校を指定するなど行政の支援もあり、徐々に広がりをみせていった。本県においては導入当初、ピア・サポートプログラムとして実践している学校はなく、本校が先進例となっている。


相談時の座る位置確認や双方向
コミュニケーションについて学ぶ

 さてピア・サポートとは、「ピア」=身分や年齢などにおいて対等な立場にある仲間が、「サポート」=支える・力づける・励ます・支持する、というような意味であるが、日本ではおおむねピア・サポートを実践するための研修と、研修終了後のサポート活動(支援活動)とを合わせて、ピア・サポートプログラムと定義しているところが多い。これを受けて本校におけるピア・サポートプログラムの目的を、①自己や他者を理解し、人間関係の問題解決やコミュニケーションスキル、ライフスキルを身につけることによって、自身の生活や対人関係を豊かにする。②リーダーシップを向上させ、対人スキル、調停などの支援を学校全体に提供し、互いに思いやれる学校環境を構築する、の2点と定めた。また研修終了後には、校内の生徒間の支援活動を推進するための「ピア・サポーター」を募り、自己の研鑚を深めるためのさらなる研修を実施しながら、グループとして、また個人としてサポート活動を進めている。

三 展開

 このピア・サポートプログラムを本校に導人するにあたり、「生徒同士が支援し合うことはいいが、支援活動をする側の生徒には精神的負担はないのか」、「秘密の保持は難しいのではないか」等々、不安視する意見が出た。しかし学校教育活動の一環として行い、常に担当教師による指導と援助の下に実践するということで職員の理解を得て、平成19年2月から、通算5日間・計12時間の研修が始まった。


第1回ピアサポート研修参加

 研修講師は、実際にアメリカの大学で実践経験を持つ、国際教養大学カウンセラー松村亜里先生で、本校のスクールカウンセラー斎藤和樹先生とともに実践していただいた。以降年1回のピア・サポート研修は現在も継続しており平成24年度で6年目を迎えた。研修に参加した生徒は総勢127人となり、ピア・サポーターとして仲間の支援活動をしてきた生徒も37人となった。

 保健室での処置件数は、平成24年度は在籍数こそ1クラス減の898人となったが、6年前に比較し46%の減となり、ピア・サポートプログラムとの相関関係を明示することができないまでも、有効に作用した可能性はある。また、生徒がこの研修で身につけたスキルや生きた体験は、個々に咀嚼され生活へ還元されることによって、学校全体へ波及効果として現れている。


平成21年1月5日付 秋田魁新報

四 おわりに

 

 高校時代には、自分の学力と品性あるいは人格を、他人とのコミュニケーションを通じて確認する作業が重要である。しかし積極的に挨拶を交わし、他人の意見や悩みをきちんと受け止め、自由に意見交換ができるには、一定の技術やこつが必要であり、この技術やこつを高校時代に身につけておくこともまた社会性を磨くことになる。今後はこのピア・サポートプログラムが本校のキャリア教育の一環として人格教育に寄与し、一層発展していくことを願っている。