新たなる伝統への流れ (7)

キャリア教育の推進  ―わが生わが世の天職いかに―

2014年09月01日更新

一 はじめに

 校歌には、その学校の「教育哲学」が凝縮されている。

 「敬天愛人理想を高く おのれを修めて世のためつくす」と歌うとき、なぜか力が入ってしまう。歌詞の意味を噛み締めながら5番まで歌う喜びを日々感じている。特に4番が好きで、人として、教師として、常にかくありたいと願い口ずさんでいる。

二 「キャリア教育」推進の背景と経過

 ここ数年「キャリア教育」の推進が叫ばれている。

 ここでいう「キャリア」とは、世の中で果たす自分の役割について価値を見いだしていくことで、キャリア教育は「生徒一人ひとりの社会的・職業的自立に必要な能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」(中教審答申)である。

 教育は、いつの時代も生徒が自立し生きていける、一人前の大人に成長させることを目指してきた。現代は少子高齢化、産業や経済の構造的変化など急速な環境変化にさらされている。この社会状況の中で、若年層の社会人・職業人としての自立の遅れが指摘されている。彼らは、人間関係がうまく築けない、自己肯定感や有用感が持てない、進学や就職しても長続きしないなどの悩みや不安を抱えている。

 日本では、平成11年の中教審答申でキャリア教育が定義され、本格的なスタートを切った。平成20年8月の教育振興基本計画を受けて、平成21年3月の高等学校学習指導要領には「キャリア教育を推進」することが明記された。キャリア教育などを通じ、学習意欲を向上させるとともに、学習習慣の確立を図る教科教育の充実が提言され、教科におけるキャリア教育的視点の導入が明確になった。

 また新学習指導要領には体験活動の充実が盛り込まれ、インターンシップやボランティア活動等の方法を積極的に取り入れるよう示された。そして平成23年1月の中教審答申では、現在のキャリア教育の定義が提示され、各校の実態に合わせて推進することになった。

 このように、キャリア教育に関する日本の教育現場での取り組みは、20世紀末に始まり十数年を経過しているに過ぎない。本校が創立130周年を迎えた平成15年には、キャリア教育という言葉をほとんど聞かなかったが、現在では頻繁に使用されている。

 教育界においてこれだけ「キャリア教育」の推進が重要視されている現状を認識した上で、本校のキャリア教育についての考え方や取り組みを紹介する。

三 秋高のキャリア教育

 本校では、平成24年度、キャリア教育推進委員会を立ち上げ、キャリア教育の全体計画(上の資料)を作成し、教育活動を展開してきた。

(1)基本的な考え方

 本校のキャリア教育を一言で表現すると「わが生わが世の天職いかに」である。秋高に集う者は、秋高生のあるべき姿、すなわちキャリア発達の根本理念を認識し、時代の要請に応えるべく、「キャリア」の育成を推進する必要がある。


140周年記念プレート(生徒昇降口)

 本校のキャリア教育は、単なる進路の出口指導ではない。一人の人間としてのあり方、生き方を探究させ、自分とは何者か、自分の自立が他者との絆の上に成り立ってはじめて「おのれを修めて世のためつくす」ことが可能になることを学んでほしい。そのためには、授業をはじめとする教育活動を通じてこれらのことを意識し、行動を通して体験させることが大切である。

 平成24年度は新たなイベントを企画するより、既存の行事等をキャリア教育の視点で意識化させることを試みてきた。この過程では、教職員の意識改革と保護者やOB、地域の方々の協力が不可欠である。「キャリア教育」という名称を使わずとも、「わが生わが世の天職いかに」を常に自問自答しながら生きている大人の背中を見せていくことも必要である。

(2)秋高キャリア教育の実践例

 伝統ある秋高の歴史のなかで「自主自律」の精神は脈々と継承されてきた。秋高生は、この言葉のもつ意味と重みを理解し、誇りをもって行動してほしい。

Ⅰ 行事のキャリア教育的運営

 生徒会の三大行事は、まさに秋高の自主自律を学ぶ場である。生徒と教師の合同委員会では、行事の運営等に関して、両者が対面し会議が進行する。生徒が教師の助言を生かしながら、責任ある運営に当たろうとする心意気を感じさせる座席配置である。

 近年、キャリア教育推進の中核と位置づけられる学校行事を二つ紹介する。

① 北雄合宿

 平成21年度に始まった宿泊を伴う新入生のオリエンテーション合宿である。校歌の練習、秋高生としての心構え、OB講話による将来像のデザイン、学習方法のアドバイス、集団生活のルールとマナーの確認など、高校生活の基礎・基本を学ぶ。4月第2週に田沢湖高原で実施される。

② 知の探究コンテスト


校歌に込められた「秋高精神」(各教室に掲示)

 平成20年度より始まったクラス単位の思考力や表現力養成のコンテストである。1・2年の各クラス代表(理数科2年を除く)が身近な出来事や現象から科学的方法を用いて実験や調査等を行い、論文にまとめ、全校生徒の前で発表する形式をとる。最優秀グループには佐々木毅(元東大総長)杯が授与される。プレゼンテーションは毎年1月第4週に開催される。

Ⅱ 授業へのキャリア教育的視点の導入

 本校の進路目標を達成するためには、師弟同行のもと、大学受験に対応する授業の展開が必要である。しかし、そのことに固執するあまり、学問の本質や学ぶことの意義について、教師が語る時間や議論する時間が持てない現実もみられた。平成24年度は、教師全員が、キャリア教育的視点を入れた学習指導案を作成し、それを基に研究授業を行うなどの実践を試みた。教師の意識改革に結びつく建設的な取り組みであった。

Ⅲ 「声かけ」の推進

 140周年の年に一歩踏み込んで、さらにキャリア教育を推進したい。そこで、教育の原点に立ち返り、「声かけ」を進める。授業改善とともにキャリア教育推進の二本柱にする計画である。生徒と教師の信頼関係の構築が全てのスタートであるというシンプルで当たり前のことを実践する。平成20年度より「アイコンタクト」を合い言葉に、教師が生徒をよく観察し、生徒と気持ちを共有し、支えあう取り組みを行ってきた。この実践を生かして、教師から積極的に声をかけ、生徒の笑顔と意欲を引き出していきたい。

四 140年から未来へ

 本校の教育目標に、「品性の陶冶」、「学力の充実」、「心身の錬磨」がある。この中で「品性の陶冶」は、調和のとれた人間性を磨くことである。文武両道も「バランス」が大事である。勉強だけ、あるいは武道やスポーツ、芸術にだけ優れていても、それは秋高生としては物足りない。「高い次元の文武両道」が求められている。バランスを保ちながら高次元を目指していく覚悟をもち、目標に立ち向かう生徒を育てていくことが、秋高の未来に向けて忘れてはならない教職員の役目である。この覚悟を継承するための手段としても、秋高キャリア教育の推進は大きな意味を持っている。

 学校教育の場で、人間性を磨くために大切なことがある。それは感動を目の当たりにしたり、直接体験することである。すなわち心がゆさぶられる瞬間に出くわすことである。

 人生には喜怒哀楽がつきものである。流す涙によって、人間の感情がゆさぶられているとわかる。必ずしもうれし涙とは限らない。辛く苦しい状況に耐えきれず流す涙もある。

 高校時代に流した涙を振り返ると、感激の瞬間を思い出さずにはいられない。教師には、自らの体験に基づく心のゆさぶりを、真っ正面から生徒に伝えていく使命がある。

 かつて学校評議員の方が「骨太な秋高生」を育ててほしいと話していた。人間としてのあり方、生き方を模索する高校時代に、心を大きくゆさぶる感動の瞬間を設定する力量が求められている。


キャリア教育的視点からの授業改善①―ふるさと学習の実践
平成24年12月5日付 秋田魁新報


キャリア教育的視点からの授業改善②
―討論による問題解決型学習の実践
平成24年12月1日付 秋田魁新報

五 おわりに

 平成15年から現在まで、個性豊かな4人の校長を、印象に残ったことばで表現してみたい。

 平成15年度~平成17年度、第40代校長菅原洋「伝統は革新と共にある」。平成18年度~19年度、第41代校長柴田義弘「難問を楽しむ」。平成20年度~22年度、第42代校長菊谷一「答えは君の中にある」。平成23年度~現在、第43代校長高橋貢「自主を育て自律を鍛える」。

 4人の校長の各フレーズは、学校活性化に大いに生かされてきたと実感している。秋高は、伝統と革新のバランスを維持しながら未来に挑戦する学校である。難題に挑み楽しむ境地に達して学問の本質を極めることが秋高に集う師弟の基本であり、社会的責任である。そのためには、学ぶ者が、自らの現状や課題を分析し、方法論を確立して答えを見いだす姿勢や態度が不可欠である。たゆまぬ実践の成果として自主性が育成され、自分を律して、世の中に貢献できる生き方を見いだせるのである。

 本校が、140年の伝統を継承し、次の10年に向けてスタートするに当た
り、「キャリア教育」を意識し実践していくことは、極めて重要なのである。