ステンドグラスに魅せられて

職業等
ステンドグラス作家
執筆者
志田 政人
卒業年
(S52卒)

PCIビル(パシフィック・コンサルタンツインターナショナルビル)

高さ2メートル20センチ、長さ8メートルに及ぶ大きな窓から見える新宿副都心の近代的な風景を切り取って見せるような作品です。

会議室やイベントに使用される際には芝生の植えられた中庭にも出る事が出来るように、開閉式のステンドグラスです。
サッシを4重にして、そのそれぞれに違ったステンドグラスを入れて、ガラスのデザインの重なりを楽しむ作品になっています。ドラマの撮影などにも何度か使用された事があります。

西新宿スクエアータワー

高層ビルの中央吹き抜け部分を囲むように設置された作品です。

トップライトから射し込む光の変化が楽しめるように、壁面に反射した光の強さを強調するデザインです。
クリアーに見える部分も歪みのある吹きガラスを使用しているため、反対側の壁面がデフォルメして見えます。

秋田市立千秋美術館

2階ホールの湾曲した部分に設置されたこの作品は、10メートル近い長さがあり、中央に立ったときに見る人を包み込むような印象で作られています。

秋田の雄物川、秋田杉の林、田のライン、そして遠くに男鹿半島を望む風景を抽象的に描き、ゴールドピンクという純金で発色させる吹きガラスを使用した作品です。
自分の故郷秋田を平面のラインに置き換えて表現しようと試みたものです。

秋田ふるさと村

横手の秋田ふるさと村、かまくらんどに設置されたこの作品は、秋田を代表する版画家、勝平得之氏の「花四題」と「祭四題」から春、夏、秋、冬の4枚とかまくら祭りの一枚、を選び光の絵画に置き換えた作品です。

自分が育った秋田の風物を最も良く表している勝平氏の版画は、とても馴染みのあるものでした。

秋田県立博物館

博物館に併設された秋田の先覚者を紹介する記念館の入り口通路に設置された作品です。
「秋田ふるさと村」と同様に勝平氏の版画「米作四題」からテーマを取った連作です。

オリジナルの版画は小さな作品ですが、その迫力を充分に表現させるためこの作品は4メートルを超えるサイズで作られています。ステンドグラスの技法は中世からヨーロッパに伝わる伝統的な制作方法で作られていて、数百年後も全く変化の無い普遍的な作品です。

※画像は志田政人作品集から転載・・・実物と異なります 

カテゴリー
海外から
掲載日
2011-02-11

志田 政人 さん からのメッセージ

 1981年から1984年までフランスの国立高等工芸大学ステンドグラス科に在籍していた当時、ヨーロッパ中をまわり、中世からルネサンス期に建てられた1000以上の街の教会を、取材や修復作業で訪れて、実に様々な経験をしました。学校では中世から現代までのステンドグラスにまつわる全ての技法を学び、その後、現代建築の中でその技術を活かして、空間を作り上げる実践の教育を受けました。

 卒業と共に、フランスで仕事をする事が出来る資格ももらい、若かった事もあり、そのまま帰国せずにフランスで生きる事も頭をかすめました。しかしちょうどその頃の日本は、バブル期に向けてまっしぐらの時代で、一時帰国した30歳にもならない私に、本の出版のお話や、大きな公共建築を任せてくれる話などが、次々とわきあがってきたのです。

 今思うと、よくも怖がらずに受けたと思われる大きな仕事がたくさんあります。公共建築にアートワークを制作する際、それはうまくいって当たり前、もし少しでも変な物を作ると、税金の無駄遣いと言われてしまいます。同じ公共建築でも秋田千秋美術館や県立博物館などでは、初めから美術に興味のある人が対象なので気が楽でしたが、JR秋田駅や横手のふるさと村、そのほか、他県の公共空間の仕事では、特別アートに興味の無い多くの人々を納得させなくてはいけないので、かなりのプレッシャーとともに仕事をする事になります。それでも私が迷うことなく制作に邁進できたのは、秋田の光が北ヨーロッパ、特にフランス中北部の光にとても印象が似ていて、初めから完成した時のイメージが明確に脳裏に浮かんだからに他なりません。

 秋田の光はガラスの色彩を最も綺麗に見せる、澄んだ北の光です。実際ヨーロッパでもフランス中部以北、ドイツ、ベルギー、オランダ、イギリスには素晴らしいステンドグラスが存在していますが、芸術の都であるイタリアには、私を満足させる古典のステンドグラスはほとんど存在しないのです。そのかわりに教会内部に射し込む多くの光を反射光で見せるモザイクやフレスコ画などは北フランスには存在せず、イタリアや南の地方に集約されているのです。
つまりステンドグラスは北の光の芸術なのです。

今年私は53歳になりますが、幸運にも秋田(旧川端一丁目、現在の大町)では両親ともに健在で、年に数回は仕事に託けて帰秋する事が出来ます。秋田に帰るたびに、昔は繁華街の中心であった、我が家周辺の活気の無さに驚いてしいます。

 各地に散らばっていた秋田高校の同級生たちの何人かは、帰秋して家業をついだりし始めているようで、最近様々な方面から友達の消息が聞こえるようになると、今後秋田を拠点に仕事をしたいという気持ちも起きてくるのですが、仕事の性質上、中央のゼネコンや建築家との仕事が中心になるため、なかなかままならないのが現状です。

 私事ですが、今年25歳になる一人娘は5年前にフランス人と結婚して4歳の男の子がいます。私は40代でお爺ちゃんになったわけで、どうしてもフランスに行く機会が多くなります。しかし年々食事の嗜好や生活習慣(和食好きで無類の温泉好き)が変わってきて、フランスでの滞在は短くなってきています。今後はじっくり腰を据えて今後の制作の拠点を決めなくてはいけないと考えています。
現在でも私の仕事に理解を示して下さる先輩達が秋田には多くいて、その方々とお会いするたびに、秋田の素晴らしさをアピールする役の末席にでも置いて頂ければと話しております。

ステンドグラス作家 志田 政人 さん (S52) プロフィール

 フランス国立高等工芸美術学校でルネ・ジルー教授の指導を得て、伝統的ステンドグラス技法を学ぶ。作家として公共施設・教会・個人邸に数多くの作品を制作し、好評を得ている。
 また、ステンドグラス研究者として25年以上にわたり、フランスをはじめヨーロッパ各地のステンドグラスの歴史やキリスト教図像学を研究し、1400ヶ所以上の調査を行っている。
 主な著作は「ステンドグラスの聖書物語」「ステンドグラスの絵解き」「ステンドグラスの天使たち」「伝統に学ぶステンドグラス」等である。