2016年10月14日 平成27年度総会講演要旨

 平成27年度総会記念講演の要旨を「同窓会だより」に掲載予定でしたが、誌面の都合上掲載できませんでした。HP上に掲載し、みなさんにご紹介いたします。
 なお、諸事情により、HP掲載が非常に遅くなりましたことを深くお詫びいたします。

日本の文化と秋田の文化
―私と秋高、そして今、文化を考える―
   東京国立博物館長 銭谷 眞美(昭和43年卒業)
○秋田への思いと秋田高校で学んだこと
 先年亡くなった父象二郎は、昭和14年の旧制秋田中学卒業である。父の遺品を整理していると、文箱に、土崎の港まつりの歴史についての文章などとともに、秋田中学の同級生の葬儀での弔辞の原稿が残されていた。水泳部での苦しい練習の結果、東北大会に出場出来たこと、卒業後同期10人が集まり「十志会」を結成し楽しく交友したことなど、中学時代の友情は、生涯の宝である旨が綴られていた。
 私は、父の影響もあり、秋田高校に進学した。多くの尊敬できる先生と友人に恵まれ、長い人生からみればたった三年の高校生活ではあったが、人生において極めて重要な意味をもつ三年間をすごしたと思っている。
 とりわけ、鈴木健次郎校長先生には、自立した人間として自覚的に生きることの大切さ、個人の欲望を抑え世のため人のため生きる民主主義の根本思想をお教えいただいた。「汝、何のためにそこに在りや」は私の座右の銘となった。
○文部科学省、文化庁で感じたこと
 文部省入省後、鈴木先生も終戦後、文部省社会教育課に勤務され、「公民館運動の父」と呼ばれていたことを知った。私は、次官就任時の職員挨拶で鈴木先生の「白鳥芦花に入る」を引用して公務員のあるべき姿を語ることができた。
 人は教育によって人間となり、文化は教育によって継承される。教育はまさに社会存立の基盤である。教育行政の基本は、教育の機会均等の実現と教育水準の維持向上を図ることにある。
 私は、36年間の文科省の勤務を通じて、主として学校教育の分野で、子どもの急増急減に対応した学校の設置、教員の人材確保と給与改善、教育内容や教科書の改善、などを担当した。とりわけ教育課程の基準である学習指導要領の改訂に4度にわたって関わったこと、校内暴力、いじめ問題への対応、全国学力調査の実施などは心に残っている。
 平成12年に総理直属の教育改革国民会議担当室長となり、教育の憲法とも言うべき教育基本法の改正に取組み、平成18年に60年振りの改正ができ、翌年、いわゆる教育三法の成立をみたことは、忘れられない思い出である。これにより教育の目的目標が明確化され、日本人としてのアイデンティティをもった人間、社会人、国民の育成が図れることを期待している。
○日本の文化と秋田の文化力
 私は故河合隼雄長官の下、文化庁に勤務する機会も得た。河合長官は「文化で日本を元気にする」をモットーに、文化を楽しむ生涯学習の推進に努められた。世界遺産、国宝に代表される有形文化財、伝統行事芸能などの無形文化財、そして、多様な芸術創造活動。私はこうした幅広い観点から日本文化や秋田の文化について考えるようになった。秋田は古代から近現代に至るまで、例えば北前船にみられるように、国内外各地との文化交流が独自の風土の下で重層的に積み重ねられ、魅力的な文化を形成している。文科省や博物館に勤務した立場からみると、故郷秋田の教育や文化はもっと語られるべきものと思っている。
 私は秋田に生まれ、秋田に育てられた。これからも教育や文化の仕事を通して社会に貢献していきたいと思っている。

カテゴリー
本部より
掲載日
2016-10-14